【長崎バス×MTJ×小田原機器 対談】デジタル活用で、バス運行課題の解決に向けた業界/地域横断連携のウラガワ

株式会社MaaS Tech Japan(以下「MaaS Tech Japan」)は2025年4月15日、長崎自動車株式会社(以下「長崎バス」)および株式会社小田原機器(以下「小田原機器」)と業界・地域を横断連携し、地域住民の「日常の足」の一翼を担う路線バスが抱える諸課題の課題解決に向けて取り組むことを発表しました。

それは、少子高齢化などを背景に横たわるバスの安定運行や人的リソースに関わる課題について、データやシステムなどのデジタルを活用しながら解決策の模索とさらなる業務効率化を進めていくというもの。国土交通省が推進する「地域交通DX:MaaS2.0」の一環でもあります。

本記事では、そもそも私たちの生活に密接に関わる一方で、日常においてはあまり意識されにくい公共交通や地域が抱えるリアルな問題や悩みなどを紐解きながら、3社がなぜ協業に至ったのかという背景や、その先に見据える目指したい世界について、当事者からお聞きしました。

長崎県に関わらず、これは他地域を含めて日本全体の課題。対談内容や3社の取り組みが全国のバス会社さんや自治体の方々などにとって、何かの一助になれば光栄な限りです。

▼本協業に関するプレスリリースはこちら

そもそも3社連携で、デジタルを駆使して何に取り組むのか?

プレスリリースと重複しますが、簡単に概要をまとめます。

3社は国土交通省調査事業の座組みの中で、バス会社の運行効率改善と持続的な輸送サービス提供を目指し、データを活用したダイヤ作成支援システムと、ランニングコストが安価なデジタルバス停のシステムを開発するとともに、その有効性を検証します。

もう少し噛み砕くと、前者については、長崎バスが持つ輸送実績データに加え、これまで把握が難しかった地域の人流データなども加味したダイヤ作成支援システムをMaaS Tech Japanが開発することで、ダイヤ改正のノウハウの可視化と潜在的な移動需要を考慮したより柔軟かつ最適なバス運行を目指します。

まちなかを走る長崎バス

そして、そのシステムを活用して作成された運行ダイヤを負担少なく刷新できるよう、小田原機器が協業先の重松工業株式会社とともに低コストの「バス – バス停間通信」を開発することで、これまで人力に頼っていたダイヤ改正に伴うバス時刻表の貼り替え作業を省力化し、バス会社の負担解消を目指します。

今回の対談で思いや成し遂げたいことを語ってくださったのはこちらのお三方。

左からMaaS Tech Japan プロジェクト担当者の古川、長崎自動車 上席執行役員 自動車部長兼運輸戦略室長の吉村氏、小田原機器 営業部 事業企画室 次長の矢野氏

地域の移動をもっと持続可能に、そして便利で快適にしたいという共通のゴールを掲げ、それぞれの立場からプレスリリースだけでは伝えきれないことをたくさん教えてくださいました。(やや緊張気味ですが、地域のお客様のことを一番に考え、情熱を持って仕事に邁進する素敵な方々でした)

各社紹介

長崎バス

「人と人、街と街を結ぶ企業として、長崎のくらしを支え、社会の繁栄に貢献する」を使命として、長崎市内一円及び西彼、五島、島原半島の全域において地域に根ざした公共交通機関として、その責務と役割を果たしている。また、長崎の観光振興の担い手として鉄道事業、船舶運航事業、ホテル・旅館業、旅行業等多岐にわたって事業を展開する。

小田原機器

1950年創業。路線バス向けの運賃収受機器/システムの提供に端を発し、社会の流れやライフスタイルの変化に応じてICカードに加え、QRコードやタッチ決済といった多様な支払い方法に対応した決済システムの開発・展開を進めてきた。最近は自社が展開するプロダクトやサービスを活用しながら、たとえばバス運行効率化のために減便するのではなく、利用増につながるアプローチを検討するといった、バス会社の課題に直接的に貢献できるような取り組みに力を入れている。

MaaS Tech Japan

2018年創業。「100年先の理想的な移動社会の基盤を構築し、移動社会を高みにシフトさせる」ことをビジョンに掲げ、データドリブンの最適な交通ソリューションを提供する。移動データを結合・可視化するシステムやMaaSアプリといったプロダクトやサービスの展開を通じ、それぞれ異なる課題を抱える都市や地域ごとにさまざまなモビリティデータを利活用することで、交通のDX化を推進している。

長崎バスだけではない。乗客減とドライバー不足がバス運行維持を難しく

長崎県は坂が多い地理特性上、バスは住民の方々の生活に密接に関わっており、積極的に利用する方も他地域と比べて多いといいます。

しかし昨今は特に長崎市を中心に人口減少が著しく、2023年の転出超過数は全国市区町村の中でワースト3位(2024年報告では改善、いずれも総務省「住民基本台帳人口移動報告」を参照)となったほか、少子高齢化も加速の一途を辿っています。

長崎バス 吉村氏

県内の生産人口年齢の割合がどんどん縮小し、結果としてバス輸送人員も減少が続いています。さらに、コロナ禍をきっかけに自家用車など他の交通モードに移行する人が増えたり、リモートワークの流れが広がったりと、如実にバスを利用する方が年々減っていることを痛感しています。

乗客減少に加えて、大きな課題がバスのドライバー不足。団塊の世代が75歳を超える「2025年問題」に突入する中、長崎バスでも定年を迎えるドライバーが多く、会社全体として人的リソースの確保が急務となっていると吉村氏は教えてくださいました。

「地域の皆様にもっと便利にバスを使ってもらいたい」すでに多様な施策を積極採用も

これらの課題を少しでも改善しようと、創業当初から地域に密着したいとの姿勢を貫く長崎バスとしても、限られたリソースを最大限活用し、輸送効率化を図るとともに、利便性の向上を目指したさまざまな取り組みに着手しています。

長崎バス 吉村氏

たとえばバスの行き先をわかりやすく表示してみたり、リアルタイムでバスの運行状況や接近情報が把握できるバスロケーションシステムを導入したり。日々試行錯誤してできるだけ利用しやすいようなバス運行を心がけています。

バスロケーションシステム

さらに、長崎駅を中心とする再開発と長崎スタジアムの開設に伴い、2025年4月以降はバスの停留所や一部ルートを変更することで、電車を降りてからもシームレスに移動をつなげるようにするそうです。詳しくはこちら

運行効率化の鍵は、適切なダイヤ改正と負担の少ない運用オペレーション

それでもなお、輸送人員減とバス運転士不足への対応策としては減便のアプローチを取らざるを得ない状況にありました。それでは抜本的な解決にはなりません。
3社は今回、デジタルを活用して運行効率の改善を目指すべく、長崎バスが大きな負担・課題の一つとして抱えていたダイヤの改正に着目しました。

そもそもバスのダイヤ改正のスケジュールはご存知でしょうか?(筆者は恥ずかしながら知りませんでした)非常に大きな労力がかかっていました。一般的に1年で最も大きなダイヤ改正は新学期・新生活が始まる4月。ここに照準を合わせて工程を説明します。

長崎バス 吉村氏

4月は新生活や新学期が始まり、お客様のご利用状況は大きく変動します。ダイヤ改正は長崎バスが持つ乗降データを元に検討されますが、動態がある程度落ち着いてくる6月ごろから、運賃収受システムから取得できる乗降データや収益性などを詳細に分析し始めます。

9〜10月ごろ、結果をもとにダイヤ改正の大きな方針(骨子)を定め、各バス営業所に説明をしていきます。
その後、収益性や安定運行維持を鑑み、たとえば次年度は数%減便する必要があるとの方針の場合、ドライバーの配置や地域性なども考慮しつつ、お客様への影響を可能な限り抑えるようにダイヤに落とし込んでいきます。

2〜3月にかけては完成した新ダイヤの時刻表のHP更新や、バス停用の印刷を進めていきます。出来上がった時刻表は実際に人力で1,700のバス停に対し、2人1組で13エリア(つまりこの貼り替え作業だけで26人が割かれる計算)に分かれて貼り替えにいき、4月のダイヤ改正を迎えます。

年末年始やお盆期間など小幅なダイヤ改正も含めると、年間通して常に負担がかかっていることがうかがえます。上記を踏まえ長崎バスが抱える悩みは大きく2つ。

①潜在的な需要も盛り込んだ適切なダイヤ改正が難しい

他のバス会社さんもそうですが、長崎バスは主に運賃収受システムから取得できる乗降データをもとにダイヤ改正を考えています。この乗降データでわかるのはお客様が「乗った場所」「降りた場所」「何時に利用したか」など。つまり把握できるのがバスを利用する方のデータに限られてしまい、そもそもバスを利用していない層やインバウンド、そのほか外部環境を考慮した潜在的な移動需要を掘り起こせていない実情があります。

②新ダイヤの貼り替えに多くのリソースが裂かれる

言わずもがなですが、時刻表の貼り替え時期になると26人の従業員が長崎全域に点在するバス停へ赴き、一つ一つ手作業で貼り替えしています。小田原機器の矢野氏も「新しい時刻表の貼り替えだけでなく、その前に改正予告のお知らせを貼ることもあり、一度だけではないケースが多い」と補足します。
少しでも省力化を図ろうと、長崎バスでは一部でデジタル式のバス停が導入されています。しかし、通信料やシステム利用料などの運営コストが結構かかるそうで、全てのバス停に置き換えていくのは現実的に厳しい面があります。

長崎バスの一部で現在導入されているデジタルバス停

MaaS Tech Japan、潜在的移動需要を把握したダイヤ作成支援システムを開発へ

①の悩みに対し、MaaS Tech Japanは移動需要を可視化し、効率的かつ最適にダイヤ改正を行うための「ダイヤ作成支援システム」を開発します。

長崎バス 吉村氏(左)とMaaS Tech Japan 古川(右)
MTJ 古川

エリアごとの人流データを分析することで、たとえ乗降データから見てバス利用が少ないエリアであっても移動需要があるかを検討し、潜在的なバス利用需要を掘り起こすことで、乗客数を増やそうというアプローチを模索していきます。

現場の経験則などから「〇〇のルートにバスが通っていたら乗りたいのに」「バス停が近くにないから乗れない」といったお客様の声が届くこともあるようで、これまで定性的で属人的に把握していた潜在的需要がこのシステムにより可視化されることで、バス運行の利便性向上につながることも期待されています。

小田原機器、ダイヤ改正を人力から低コストでデジタル化へ

②の悩みに対し、小田原機器は短距離通信による「SIMレスデジタルバス停システム」を開発します。人的負担はもちろん、長崎バスによると、一般的なデジタルバス停は1本当たり月額2,000〜3,000円のランニングコストがかかるため、計1,700本を置き換えていくのはあまり現実的ではありません。

小田原機器 矢野氏(左)と長崎バス 吉村氏(右)
小田原機器   矢野氏

一般的なデジタルバス停は、時刻表をデジタルデータとして配信する必要があり、その際データを管理しているクラウドサーバとSIM通信する仕組みになっており、これが前述の高コストの原因となっています。

今回のプロジェクトでは、この点に着目しました。具体的には、バス車内に小型の車載機を配置し、その車載器が各営業所で当該ダイヤデータをwifiで受けます。そして、そのバスが運行路線を走っている時に近接するバス停1本1本に対し、無線技術を使ってデータを配達し、デジタルバス停に時刻表を反映させる流れになります。

このバス-バス停間の通信により、これまでのSIM通信料をゼロにし、ランニングコストを抑えることで、デジタルバス停の拡充を促し、ひいては省力化に貢献する狙いです。

新システムの仕組みイメージ(小田原機器 提供)

国土交通省事業は協業の大きなきっかけ、今後の横展開の弾みへ

3社は今回の協業に至った経緯について、国土交通省のプロジェクトなしには実現しなかったのではないかと口をそろえます。

長崎バス 吉村氏

長崎バスの課題感としてずっと持っていながらも、根本の解決策は見出しづらかったですし、規模の大きいことをやりたいと思っても金額に折り合いがつかず単独1社ではこの状況を打破するのは難しかったと思います。

小田原機器   矢野氏

長崎バスからかねてよりご相談を受けていたものの、なかなか解決に至るための具体的な動きにまで落とし込むことが難しかったんです。ですので、今回の国土交通省の座組は本当に大きなきっかけの一つになり、貴重な機会をいただくことができ、心より感謝しています。

MTJ 古川

プロジェクトへの支援や座組組成など、素晴らしい機会としてこの3社が集まることができました。良いアウトプットにできるよう邁進したいですし、ゆくゆくは本協業を好事例として同様の課題をお持ちの他地域や事業者様にも横展開することで、日本の移動課題の一助にしていきたいと考えています。

「今後はインバウンドのニーズにも応え、バス安定運行と、長崎の発展に貢献していきたい」

長崎バス 吉村氏

インバウンドを含め長崎に観光に来られる方がコロナ前の水準に回復しています。路線バスはこれまで、観光客に使っていただくことが少なかったのですが、こうした方々にも利用いただきやすいようこの1年ほど、バスの行先表示の番号だけを頼りに市内に点在する観光スポットに行けるようにしたり、言語バリアフリー化も進めています。

取り組みを始めてからまだそこまで時間が経っていないものの、運転士からは「インバウンドのお客様の利用が増えているように感じる」「英語は話せないが、対応できるように何か指差し確認だけでお客様の対応ができるようにしてほしい」などの手応えや要望が聞かれているとのこと。

長崎バス 吉村氏

国内の一部地域ではオーバーツーリズム問題も叫ばれる中、修学旅行生などの団体旅行が長崎を含む九州に移行する動きも見られつつあり、観光需要は今後ますます伸びてくるでしょう。学生さんを含め遊びに来られた方々が、バスなどの公共交通を使ってリーズナブルかつ自由にローカルな観光をしてもらうことで、生活者への移動サービスの安定提供を補完できるように取り組んでいきたいです。

データドリブンで「人」を軸に移動の自由を当たり前に

データやデジタル、DXなど、、一見これらはとっつきにくく、ぴんと来にくい印象をもたれがちです。しかし、モビリティデータを扱うMaaS Tech Japanが目指したいのはシンプルに、移動の自由が当たり前となる世界

昨今特に、人々の移動やライフスタイルは多様化し、観光需要も大きく変動し、さらには地域ごとに置かれている状況や実態、ニーズも多岐にわたります。こうした状況を正確に把握し、可視化するためにはデータが重要だと捉えると同時に、高齢者や学生さんなど移動手段が特に限られてしまう中、その地域に根差した地域公共交通は生活者にとって欠かせない存在です。

MTJ 古川

社会が大きく変容する中、MaaS Tech Japanは従来の、”交通に合わせて人が動く”というものから、”人の動きを主軸に交通が動き、つながっていく”状態にしていきたいと強く考えています。

収益を維持、上げていきながら持続可能な地域交通を構築し、あらゆる人がいつでもどこでも「どこでもドア」のように当たり前に、シームレスで快適な移動を享受できる世界を目指すーー。

MaaS Tech Japanが描く世界は1社単体では実現できません。今回の協業のように、全国の自治体、バス会社や鉄道会社などの交通事業者など、さまざまなステークホルダーの方々と一緒に力を合わせて取り組んでいきたいと考えています。

本件についてもう少し詳しく聞きたいというご要望はもちろん、移動や地方交通などMaaSに関するお悩みや協業に関するご相談、MTJが展開する各種プロダクトやサービス内容についてなどなど、お気兼ねなくお問い合わせください。

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